映画『ダントン』個人的に好きなシーン

人権宣言フランス革命雑記

タイトル通り、映画『ダントン』の個人的に好きなシーンをひたすら語ります。今回は時代考証(かのスタンリー・キューブリックはこの映画における時代考証の正確さを褒めたらしい)も一切なしに、めちゃくちゃ細かい個人的萌えだけを語ります。きっと読み終わったあとには、登場人物のクレイジーさ(ほめてる)に惹かれて、絶対に『ダントン』を観たくなると思います。長文になるような気がしますが、付き合ってくれる方はぜひ!笑

映画『ダントン』とは

一応紹介しておきます。

『ダントン』(Danton):

1983年に公開されたフランス・ポーランド合作映画。

監督:アンジェイ・ヴァイダ(Andrzej Wajda)

脚本:ジャン=クロード・カリエール(Jean-Claude Carrière)、アンジェイ・ヴァイダ(Andrzej Wajda)、アニエスカ・ホランド(Agnieszka Holland)、ボレスラウ・ミカレク(Bolesław Michałek)、ヤシェク・ガシオロフスキ(Jacek Gąsiorowski)

原作はポーランドの女性作家、スタニスワヴァ・プシビシェフスカ(Stanisława Przybyszewska, 1901-35)が1929年に発表した戯曲『Sprawa Dantona』(英題は『The Danton Case』)。2008年にはポーランドの劇場で上演されたみたいです。詳細はこちら。

The Danton Case – Open Archives

ポストパンク調でフランス革命を描くとのことで、かなり気になります。どんな感じだったんでしょうか。

また、彼女は『Thermidor』(テルミドール)という戯曲も書いています。

全体的な感想

とにかくみんな演技がうまい。ヴォイチェフ・プショニャック(Wojciech Pszoniak)は、かくかくとした動き方や、話しかけられたときにびくっとする仕草など、神経質で融通がきかなそうなロベスピエールの様子を見事に演じています。ダントン(ジェラール・ドパルデュー, Gérard Depardieu)はといえばとにかく豪快。声がしわがれるまで話し続けるところとか、ダントンってきっとこんな感じだったんだろうな……と思わせる演技です。デムーラン(パトリス・シェロー, Patrice Chéreau)は不安げでどこか弟分っぽいところがあり、サン=ジュスト(ボグスワフ・リンダ, Boguslaw Linda)はとにかく大胆不敵。彼が恐れるものは何もありません。リュシル(アンゲラ・ヴィンクラー, Angela Winkler)は思ったよりも力強くて、デムーランと良い対比をなしていました。本当に全員がイメージ通りで、ご本人たちがあの時代から抜け出してきたの??という感じです。

議会での演説のシーンも見ものです。民衆たちの熱狂する様子が伝わってきます。それでいてところどころおどろおどろしくもあり、かといってユーモアが完全に忘れ去られたわけでもなく、という絶妙な塩梅の作品でした。

ロベスピエールとサン=ジュストの会話

冒頭、ロベスピエールは体調を崩して家で寝込んでいるようなのですが、そこへサン=ジュストがやってきます。なんとその手には花束が……!この時代、どうやって花が売られていたのかよくわからないのですが、これは買ってきたんですよね??包装とかされてないので、もしかしてロベピの家に来る道中、「あっ!これマクシムの好きな花だ!抜いていっちゃえ!!」的なテンションで持ってきたのかな?とか想像しちゃいました。さすがにそんなわけはないと思うんですけど、なにぶんこの映画のサン=ジュストは激情型っぽい(他の作品でもか?笑)ので、ありえなくもないかなーと。

サン=ジュストはロベピのことマクシム(maxime)って読んでます!!ひかりふる路ヲタク歓喜!!! ひかりふる路でもマクシム呼びでしたけど、初出ってここなんですかね?? 史実では何て呼んでいたのか気になる……。ちなみに、『ダントン』ではロベピはサン=ジュストのことアントワーヌって呼んでます!なんか新鮮。

花束をもって現れたサン=ジュストは早速、ダントンの処刑を提案します(早速すぎる)。ロベスピエールは「ダントンは偶像だから処刑しない」と言います。するとサン=ジュスト、手にしていた帽子を突然暖炉に投げ込む。サン=ジュストが暖炉に帽子を投げ込むシーンって、佐藤賢一の『小説フランス革命』でもあるんですが、これは本当に帽子を投げ込むのがサン=ジュストの癖だったということなのでしょうか……?それともこの映画へのオマージュ??それにしてもあまりにもクレイジーすぎます笑

さらに、帽子を燃やした直後、サン=ジュストは急に意気消沈したように壁にもたれかかります。そこへエレオノールが現れ、ロベスピエールにパンと砂糖なしのコーヒーを持ってくるのですが、サン=ジュストの様子を心配したロベスピエールはそのコーヒーを彼に差し出します。このときのロベスピエールの不安げな表情がツボ。さっきまで元気に帽子を投げつけていたくせに、その直後にロベピが恐る恐る近づかずにはいられないくらいの落ち込みぶりを見せるのが面白い。

ダントンとロベスピエールの会食

この会食シーン、めちゃくちゃ良いです。ひかりふる路ファンは必見。ダントンがロベスピエールのために部屋を青い花で飾らせるのも素敵。マクシムは青い花が好きだったんでしょうか?至高の存在の式典でも青い衣装をまとっていたらしいし、青がお好きなんでしょうか。

『ひかりふる路』を見た方はおわかりかと思うのですが、この会合はロベスピエールとダントンの決裂を決定的なものにするめちゃくちゃシリアスなシーンです。それなのにもかかわらず、この映画はめちゃくちゃユーモアに富んでます。もしかしたら制作側はユーモアを意図していないのかもしれないけど、私は何度見ても笑ってしまう。

まず、ダントンはロベスピエールと二人きりで会話をするために、「この屋敷には誰も入れないように!」と言って他の部屋にいる人たちを退散させるよう仲間たちに指示します。この退散のさせ方がとてもシュール。降霊術をやっていると思しきひとたちを退散させる様子が特に好きです。さっきまであんなに威勢よく追い出していたのに……笑

そんなこんなでようやくダントンはロベスピエールとの会合を開始します。珍しくカツラまでかぶって正装したダントンは、「飲めよ!」と言ってロベスピエールのグラスにギリギリまでワインを注ぎます。ロベスピエールは「こいつ、本気か……?」と困惑したような表情をしながら、なんとかこぼさずグラスを持ち上げて乾杯。そりゃ、お互いやるかやられるかの決死の覚悟で臨んだ食事会でこれだけワインを注がれたらこんな表情になるわ。これって脚本にこういう指示があったんでしょうか?それともアドリブ?

乾杯して、ようやくお互いの真意を探り始めます。ダントンは極めて友好的にロベスピエールとの会話を進めるのですが、ロベスピエールの頑なな態度についに痺れを切らします。そこからは圧巻の演技です。が、しかしやはりここでもちょっと面白いシーンがあるのです。ダントンは「お前は人々のことを何も知らない!自分自身を見てみろ!お前は酒も飲まない、かつらもかぶるし女も知らない!」(意訳)と叫ぶのですが、このときに勢い余ったのか、ダントンはロベスピエールのかつらを思いっきりむしるのです(!)。ダントンに罵られるなか、乱れたかつらを無言で丁寧に直すロベスピエール。なんともいえない……。いつもここでふふっとなってしまいます。

結局わかりあえなかった二人。颯爽とカツラを直しながら帰っていくロベスピエールの脇に、ちらっとサン=ジュストが映り込んでいます(しかもロベピはサン=ジュストがいることに気づいてなさそう)。どうやら、ロベスピエールとダントンの会合の間、屋敷の一室で待機していた模様。ダントンが「この屋敷には誰も入れないように!」と言ったのに、君はいつの間に忍び込んでいたんだ。

デムーランとロベスピエールとの会話

「カミーユ」と名前を何度も連呼して、デムーランを救おうと必死になっているロベピが良い。ロベピは、「カミーユはダントンに騙されている!利用されている!」といってデムーランの目を覚まさせようとするんですよね。ロベピ、デムーランを完全に子供扱い。どうやって説得しようかな……とか考えてそうなロベスピエールの表情もまたツボです。

公安委員会に遅刻したときのサン=ジュストの返事

遅刻してきたにもかかわらず、ロベスピエールがいないことを確認して「良かった!まだ彼は来てない」と言って席についたサン=ジュスト。公安委員の一人(誰なのかわからない……わかるひといたら教えてください)が注意すると、サン=ジュストは「君はいつも僕に若さを思い出させてくれるよ……」と言って微笑みます(サン=ジュストは最年少議員)。すごい煽り文句です。これでこそ我らのサン=ジュスト。解釈一致。こういう、本当に言ったかどうかはわからないけどいかにもサン=ジュストが言ってそうなセリフをぶっ込んでくるアンジェイ・ヴァイダ、めっちゃ好きです。他のキャラクターに関しても、ああ、この人なら絶対こういうこというだろうな〜というセリフが多くて、結果的にずっとニコニコしながら鑑賞してます。私も遅刻して怒られたら、このセリフを言ってみたいです。絶対さらに怒られる羽目になると思うけど。笑

ちなみにそのあとロベスピエールがやってきて「遅れてきたことを許してくれ」と言うのですが、サン=ジュストは「まるで王が臣下に話すみたいな口ぶりですね!」と茶化します。真顔で「それじゃあ一体どうやって話せというんだ?」とロベスピエールが答えると、サン=ジュストは一人、きゃははっと(きゃははとは言ってないけど)笑いこけます。清廉の士に対してもジョークを言えるサン=ジュスト、さすがとしか言いようがありません(ほめてる)。

ダントン告発の際の国民議会

ダントン告発を受け、荒れに荒れる国民公会。そこでロベスピエールが演説を申し出ます。それを阻止しようとする議員たち。サン=ジュストは演説する議員の順番が書かれた紙(?)をビリビリに破り捨て、クートンはといえば彼も車椅子ながら激闘(当時の車椅子ってすごいですね……他のシーンでもクートンは力一杯車椅子のハンドルを回しています)。そして演台に上ったロベスピエールが「次(の演説)は誰の番だ?」と聞くと、「あなたです!(À toi! )」と答えるサン=ジュスト。まさに行動の人。キレの良さがたまらん。いや、君はいつから議長になったんですか??笑

牢獄でのデムーラン

逮捕されたあとのデムーランとフィリポーとの会話もめちゃくちゃ好きです。フィリポーの返しがあまりにも冷たすぎる。ここまでの塩対応は見たことがない。以下、意訳です。

居ても立っても居られない様子で部屋をうろつくデムーラン。ベッドに座り読書にふけるフィリポーに近づき、話しかけます。

デムーラン 「僕を一人にしないで。気が狂いそうだよ」

フィリポー「恥を知れ」

デムーラン 「何が起こるのかわからないよ」

フィリポー「お前は5日以内に死ぬんだ。その事実を知り、希望を捨てるんだな。死が確実なものとなったとき、苦しみは消える」

デムーラン 「僕らが勝つかもしれない」

フィリポー「いいや、これは政治裁判だ。政治は正義とは何の関係もない」

絶望したようにその場にしゃがみ込むデムーラン。

デムーラン「死にたくないよ。僕にだって生きる権利があるんだ」

フィリポー「その権利をもってるうちはな」

デムーラン (゚ω゚)

絶望するデムーラン。そこへダントンが乗った馬車が現れます。駆け寄ってきたデムーランを抱きしめながら、「泣いてるの?」と顔をのぞきこむダントン。フィリポーの塩対応を見た直後なので、ダントンの暖かさが身に染みます。

おわりに

以上、個人的に好きなシーンをお送りしました! この映画を見たことがないひとには少しわかりづらかったかもしれません。しかし、この映画の良さはきっと伝わっているはず……と信じてペン(パソコンだけど)を置きます。映画『ダントン』、名作ですのでぜひ見てください!!

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