劇団ハレトケの『Terreur ~フランス革命、愛、理想、その先に〜』をYouTubeで鑑賞した。2025年3月に東京のJOY JOY THEATERで上演されたものだが、今年になってYouTubeで全編公開されたものである。YouTubeで検索すると出てくるので興味のある人は調べてほしい。
この作品ではなんと駆け落ちするロベピが見られるとのことで、そ、それはロベピじゃないだろ…と思いつつクリックしてみた。が前言撤回(ちょろい)。駆け落ちするロベピも存在したって良い!!
以下さくっと感想を。ネタバレ注意です。
簡単にあらすじを紹介すると、革命を生き延びたシャルロットが兄ロベスピエールについての本を書こうとしていて、婚約者だったエレオノールに話を聞きにいくところから話が始まる。そこからエリザベートの冒頭のように死者たちが出てきて、本編が始まる(証言劇ではない)。
一幕は1789年。革命の指導者と目されるロベピはオリキャラのアンリエットに恋をしていて、なんだかんだあって(後述)この国にいては2人は結ばれないということで他の国に駆け落ちしようとする。しかし駆け落ちする晩にアンリエットが殺害されてしまう。絶望したロベピはアンリエットと約束したユートピアを実現してみせると誓う。
二幕、再びシャルロットとエレオノールの会話から始まり、1792年。ロベピは寝食も忘れ革命に邁進し、恐怖政治を押し進める。デムーランに批判されるが、リュリルもろとも処刑。ようやくアンリエットと約束した世界を作り上げることができた、と達成感を覚えたのも束の間、この世界にユートピアなんてないと思い知る(ここの演出はひかりふる路の最高存在の式典を彷彿とさせる)。テルミドールのクーデターが起こり、ロベピはアンリエットの弟のダニエルに撃たれる(死なない程度の傷ではある)。サン=ジュストはダニエルを撃とうとするが友人ゆえ撃てず、ダニエルは自殺。そのままロベピも処刑される。「僕の言葉は誰に届くのか」。エンド。
だいぶ端折りましたがこんな感じ。とにかく救いがない。ひかりふる路でも(何回いうんだ)小説フランス革命でも、ロベピは死の間際には持ち直すし、私はそんな最後まで希望を持って人間を信じ続けるロベピが好きなのだが、アンリエットの一幕後半の「私の声は誰にも届かない」がこういうかたちできいてくるのかと…。
出てくる史実キャラはロベスピエール、サン=ジュスト、デムーラン、リュシル、シャルロット、エレオノールくらい。この世界線のロベピは1789年には革命家としてすでに大きな影響力を持ち、バスティーユ陥落にも参加している。サン=ジュストも参加しているし、すでにロベピを崇拝している。なんならすでにエレオノールとも知り合っている。
デムーランはバスティーユを煽動したという点では史実通りだが、すでに1789年の時点で王政廃止を主張する過激派である。ロベピの主張が寛容すぎると批判し、もっと「大胆さ」が必要だ(ダントン!)、アンリエットのせいでだめになる、ロベピこそが指導者なのだからアンリエットと引き離さなければ、と悪役ポジションのシャルルというオリキャラがとがめるほど悪意に満ちた誹謗中傷の記事を書き、そのせいでアンリエットは民衆のリンチにあって最終的にシャルルに殺される。
ところが二幕では一転、デムーランはロベピの恐怖政治を批判。一幕とあまりにも言ってることが違いすぎる。それだけロベピの恐怖政治が苛烈だったのかもしれないが、ロベピを革命の指導者にしようとして恋人を奪ったのは君だろうに…。この3年で一体何があったんだ。
作中でのデムーランの市民への影響力はとんでもないものだし、役者さんの方がロベピの役者さんより背が高いことも相まって、そんなに言うなら自分が指導者になりなよ、と言いたくなるくらいのデムーランだった。デムーランといえば「カミーユ」とファーストネーム呼びたくするような、どこまでも子どもで、調子の良いことは言うが処刑前にはぷるぷる震えている(ワイダの映画が好きすぎる)、みたいな造形が多いので新鮮だった。
リュシルは割と史実通り。こうやってロベピもアンリエットと一緒に死にたかったのかなあと思った。
サン=ジュスト。良かった。ロベピといえばその傍らに冷徹な美貌のサン=ジュスト。ベルばら育ちの私にはどうしてもそのイメージが抜けないのだが、サン=ジュストとセットで出てくるミュージカル作品ってひかりふる路くらいじゃないか?というくらいレアな気がするので、ここまでしっかりサン=ジュストがロベピに傾倒していった過程を魅力的なナンバーにのせてくれたのが本当に嬉しかった。あの有名な手紙の一節も入っていて、おお!となった。私はこういうのがみたかったんだよ〜!
唯一の理解者であったテレーズに失恋→悪魔と契約してこの世界に復讐してやろう→ロベピに出会い、彼は神よりも崇め奉るべき存在だ!という一連の流れが、本当に私の好きなサン=ジュスト像で。ずっと銃を持ってるのもイメージ通り。ダニエルを撃てないの流れも良いし、なんか妙に律儀なところも可愛いし、私のみたかったサン=ジュストがここにいました。ありがとうございます!オタクは五体投地で感謝しております!!
ロベピもあらすじ通り斬新すぎた。この愛のために世界変えて見せようッピ、かつらの毛むしりとられおじさん、せっせと水やりするッピなど様々なロベピを観測してきたが、革命より恋愛を優先するピは初めてである。
ミュージカル界のロベピといえば長身イケメンになってしまうのだが、この作品でのロベピも他の作品同様やはりかつらではなくロングヘアだったものの、役者さんが小柄で声も高めということがあり、新規性の高いロベピだった。『断頭のアルカンジュ』のロベピっぽい(『断頭のアルカンジュ』のロベピもかなり従来のイメージと違うようなので最期がどうなるのか気になるのだが、グロすぎて途中で挫折した。同様の理由でイノサンも読めていない)。
何より、ロベピを血に飢えた独裁者として描くにしても一人の血の通った人間として描くにしても、彼は革命を体現する人物であり、革命から遠ざかろうとなどは決してしない。それがあっさり革命から身を引き、恋人と国外逃亡しようとしているというありえない設定を、「こんなロベピもありかもしれない」と思わせる演技力だった。もちろん脚本の力もすごい。
エレオノールはひたすらかわいそうな役どころだ。そりゃ冒頭の態度にもなるわな、と納得するくらい、ロベピから勘違いされて嫌われている。幸せになってほしい。
シャルロットもロベピのこと書いてくれてありがとう。こうしてあの回顧録ができあがったんですね。
フランス革命を描くとなるとどうしてもマリー・アントワネットの処刑シーンを描きたくなると思うのだが、この作品では史実キャラを絞り、どうしても外せない出来事はナレーションで、という潔さがあった。
また、歴史ものだとどうしてもオリキャラより史実キャラの方が魅力的ということも多々あるのだが、この作品ではオリキャラが光っていた。
一番良かったと思ったのはダニエル。未熟な少年への解像度が高い。姉を革命の敵と断罪してしまうところや揺れ動く心情描写が頭を抱えてしまいそうになるくらいに若者という感じではらはらした。最も感情移入できたキャラだと思う。
次に印象に残っているのがシャルル。私こそが世界を支配すべきと主張しているところとか、アンリエットに結婚を迫るところなんかは1789のアルトワ伯に似ている。なんならアルトワ伯がかわいく見えるレベルに(部下が愛すべきポンコツだからしょうがない)、ブルジョワ革命家を潰そうと暗躍している。
「飢えたものこそがこの世を支配すべき」というエベールっぽい思想を展開するナンバーが魅力的だっただけに、最後にもう少し活躍する展開があったら良かったなあと感じてしまった。だってこいつがアンリエットを殺してるんですよ…。
それからこれは他の方のレポにもあったと思うが、いかんせんサン=ジュストと似ている。衣装の色味も髪型も、人を小馬鹿にしたような話し方も、動機は違うとはいえ、世界に復讐しようとする点も似ている…。言うことは全然違うので話し始めればわかるのだが、もう少し外見からでもわかりやすく2人を区別する演出があったらなお良かった。
そしてアンリエット。彼女自身は何も悪いことなどしていないのに、にっちもさっちもいかない状況になっていくところが不憫だった。なんであんなことになっちゃったんだろうね…。
ただ、まあこんなことを言い出したら物語が面白くならないと思うのだが、この国では2人は愛しあえない→外国へ行こう!は本当??となった。1789みたいに身分違いの恋ならまだわかるのだが(それでもやはり本当に外国へいけば解決する問題なのかわからないが。他の国だって身分はあると思うし)、この作品の場合、2人の足かせになっているのはアンリエットがロベピ&デムーランの友人のジャン・ポールを殺してしまったことにある。ロベピは「僕にだって自由に人を愛する権利がある」、アンリエットは「私には愛される権利がない」と言っているが、ここでの「権利」は法的な意味の権利ではなく、不器用な愛情表現としての意味合いが強いように思える。そもそもロベピは身分制度が起因してどうしてもエレオノールと結婚しなきゃいけないというほど追い込まれているわけではないので、ここは普通に断ってほしい。アンリエットの「愛される権利がない」は「人を殺してしまった自分、そしてそのことにより誹謗中傷される自分には」ということだと思うので、前者は良心の問題、後者は訴訟や地道な活動で解決を図れるのではないか。
アンリエットは生活のために娼婦をしていて、そこへ既婚のジャン・ポールがやってきて彼女に惚れ込んでしまい、自分の身を守るためにしょうがなく、というあらすじだったと思うのだが、やはり正当防衛(にはいるかはわからんけど)とはいえ人を殺してしまったなら一度裁かれて、そこから無罪を勝ち取るなどした方が良かったのではないか。ロベピは数々の難関案件で勝訴してきた有能弁護士なんだし、ここは腕の見せ所では!犯罪加害者に関する論文も書いてるし。
それでもアンリエットを革命の脅威に感じているデムーランという曲者がいるが、これはロベピの演説で抑えこめただろうし、なんならロベピ自身が誹謗中傷による名誉毀損は裁判で解決されるべきと考えていたっぽいので、こちらも訴訟で解決してもらうしかない。訴訟が万能だとは思わないが、ロベピは法の人なので一旦裁判に持ち込もうと考えるのではないかと思う。
まあでもこれは史実のロベピならこうするかなという妄想であって、この作品のロベピとは思考回路が違うのだろう。ナンセンスな妄想かもしれない。実際あそこまで誹謗中傷されていたら外国とまではいかなくてもパリを離れたほうが良いレベルではあったので、やっぱり駆け落ちするしかなかったか。
このまま脚本の話をすると、私の好きなロベピとは全然違うのだけれど、きっちり最後にクライマックスがあり(ダニエルとサン=ジュスト良かったよう)、このセリフがここで効いてくるのね!という伏線もあり、非常に面白かった。「革命」というダンサーを出してきたところも良かった。ロミジュリ大好き人間なので…。
舞台装置は簡素で机のみ。衣装も現代風。それでも伝わってくるんだからすごい。大雨のときにシャルルがきっちり傘をさしていたのが妙にツボだった。
それから音楽も良かった!シャルルとサン=ジュストのナンバーが特に好き。それから突然始まるラップも良い。誰が作曲したんだろう?とエンドロールを見てびっくり。演者さんが曲も書いている!?しかも大道具や小道具も作っている!?!?
いやはや、頭が下がる。本当にすごい。学業とか仕事とか生活とかいろいろあるでしょうに、こんなに一つの作品に情熱を捧げているとは…!本当にこんな素敵な作品を作ってくれてありがとうございますという気持ちしかない。
アマチュア劇団(?)の舞台はあまり見たことがなくて、一体どんなものだろうと思っていたのだが、想像以上のクオリティだった。むしろこの原石感、ハマってしまうかもしれない。実際に劇場で見たらもっとすごいエネルギーなんだろうなと思う。一度見にいってみたい。
ということで長くなったが(それでもまだ触れられていないところがたくさんある!)これにて感想終了。実は何度も見返しているので、また加筆するかも。劇団ハレトケのみなさん、本当にありがとうございました!!


