K-BALLETの『パリの炎』をみた。演目の紹介など細かいことは置いておいて、とりあえず見た直後の感想を。ガッツリネタバレするのでまだ見ていない方はお帰りを。
実は2019年にミハイロフスキー劇場の来日公演を見たことがあるのだが、当時は仏革熱が一時的に低下していたこと、3階席で見たのだがちょっと周りが騒々しくてあまり演目に集中できなかったこともあり、正直あまり印象に残っていなかった。しかし今回の公演は違う。とにかく観客を惹き込むストーリーがあり、一瞬たりとも目を離せない怒涛の展開が待っている。
一幕は傲慢な貴族、民衆の怒り、革命に参加する若者など、仏革ファンなら既視感のあるシーンが続く。とは言っても時代1789年ではなく1792年、ある程度革命が進行しているのに貴族たちはこんなに呑気なんかいという新鮮さがある。
二幕ではロベスピエールが登場し、さらに革命が加速していく。アントワネットが処刑され、さらに主役のカップルまでもが処刑される。
今回は宮尾さんによる新演出ということで、新しいポイントとしては①物語の中心にナポレオンを据えたこと、②ロベスピエールを登場させたこと、だろうか。他のバージョンがわからないのだが、アントワネットのコンシェルジュリーのシーン、サンソンの登場なども今までのバージョンにはおそらくないのではないだろうか(間違ってたらすみません)。
物語は皇帝となったナポレオンが1人書斎で過去を回顧するところから始まる。冒頭の演出かっこよかった。この作品でのナポレオンはマルセイユ義勇軍に参加し、革命の進行をつぶさに目撃する。
主人公はジェロームという若者で、彼は貴族の娘アデリーヌと恋に落ちるのだが、激怒した彼女の父親に引き離される。それがきっかけでジェロームはナポレオンと共に義勇軍に参加するのだが、ルイ16世、アントワネットに続き、アデリーヌの父親まで処刑されることになってしまう。アデリーヌはジェロームと共に革命に参加するものの徐々に精神の均衡を失い病んでいくのだが(プログラムの解説では『ジゼル』が引き合いに出されていた)、ようやく父親がギロチンの前に立ったところで正気に戻り、思わず父親に駆け寄る。すると民衆たちは彼女を非難し、あれよあれよというまに彼女もギロチンへ。このあたりの展開が本当に早かった。彼女の死にショックを受けるジェローム。民衆たちの怒りの矛先は次はジェロームへと向き、なんと義勇軍のリーダーでジェロームの妹の恋人のフィリップに撃ち殺される。ジェロームの妹ジャンヌも勇ましく革命に参加していたが、流石に兄の死にはショックを受けて駆け寄る。しかしフィリップが説得(?)すると彼女は全てがどうでも良くなったかのように笑い(私にはこう見えた)、革命にわく民衆の踊りへと加わる。ジェロームの遺骸に寄り添うのはナポレオンただ1人である。きっとこのジェロームの死が皇帝ナポレオンの原点だったのだろう。最後には踊り狂う(うろ覚え)民衆の頂点にナポレオンがたち、彼がこの無秩序を力によって終わらせたことが示唆される。
二幕最後のスピード感が実際の革命のようで素晴らしかった。今日正義だったものが、明日には弾劾されることになる。特に革命により狂気に陥ったアデリーヌが正気に戻り父に縋り付いたのに、民衆は彼女を狂人だとでもいうように弾劾するところが良い。正気と狂気の逆転。1月に見た『サド侯爵夫人』とも通じるところがあった。
マリー・アントワネットも悲劇的に描かれていた。コンシェルジュリーのシーン、2人の子どもたちが引き離されて、そちらに注目していたらあっというまに彼女も衣装を剥がされて白い下着姿で髪も解かれていた。いつの間に?そこへすでに亡くなったルイ16世の幻が現れて彼女を鼓舞するというのもあまり見たことのない展開で、1幕の華やかさ(衣装がとんでもなく豪華で綺麗だった!!)を目の当たりにするとやはり涙なしには見られない。1789にしてもMAにしても首を刎ねられるシーンは舞台上では表現されていなかったが、この作品ではしっかり首をかかげられていた。ちょっとショッキングかもしれない。個人的には首をかかげるよりも、残った胴体の方(もちろん実際に首は落とされていないのでダンサーの体全体だが)を布で包んではけていく方が妙に生々しく感じた。
そして熊川ロベスピエール。素晴らしかった!!
どうやら一幕最後でちょっと登場するらしいのだが、そこは見逃してしまった。そういえばオランプもわからなかった。。。3組のカップルのうちの1人だったらしい。オランプに限らず、私のようなK-BALLET初心者はちゃんと予習してお顔と役名を覚えておいた方が良いかもしれない。
ロベスピエールの主な出番は2幕冒頭。熊川ロベピが出てきた瞬間、会場では割れんばかりの拍手が鳴り響き、舞台上の熊川さんも圧倒的スターのオーラで、ただ彼の身体がそこにある、それだけで観客の視線を一手に惹きつけてしまうカリスマ性があった。
熊川ロベピはバスクの踊りをセンターで率いるだけではない。他のダンサーが中央で踊っている間、横で書類にサインしたり、記者に向けて思想を語ったりとまさにロベピ!という動きをしている。動きといえば、他のダンサーと同じ動きでも妙にぎこちなかったり、几帳面そうな動きをしていたり(衣装の汚れを気にするような素振りもあったように見えたが、これも振り?)、かなりロベピっぽい。ワイダの映画のロベピに近い印象を受けた。
とはいえ、やはりこのロベピは今まで見たどんなロベピよりもカリスマ性がある。ジェローム(ナポレオン?)たちに銃を渡したり、フランス国旗をかかげてアンジョルラス??みたいなシーンもあったりするのだが、こんな人物がいたらそりゃあ戦わざるを得ないよね、という説得力がある。
そしてこの作品では、ロベピに熱狂しているのは舞台上のダンサーだけではない。観客の私たちまでもが、熊川ロベピに陶酔しているのである(もちろんそうではない人もいたとは思うが、今まで聞いたこともないような拍手とブラボーの嵐だった)。お隣の方もブラボーと叫んでいたので、ついわたしも「ブラボーロベスピエール、君こそ新時代の指導者だ!」と叫びそうになってしまった。
ロベピに熱狂する当時のシトワイエンヌ気分を味わえてすごい高揚感だったのだが、ふと我にかえると、圧倒的カリスマ力を持つ政治的リーダに熱狂している自分がいることに気づき、あまりにも危うくないかと思った。そして(意図的か、結果的にかはわからないが)観客を巻き込んでこうした危うさを作り出す、革命の熱狂を観客に追体験させる、これがこの作品のユニークなポイントではないかと感じた。
パリの炎の感想動画で高橋先生が「革命というのは歓喜と憎悪の過剰」とおっしゃっていたと思うのだが、まさしくこの作品の二幕後半である。民衆はもはや憎悪と歓喜の区別がついていない。この革命の熱狂的エネルギーを再現したことに拍手を送りたい。
また、話が前後するが、アントワネットの処刑のあと、その場にいた民衆の何人か(冒頭から目立っていた少年も含め)が十字架にはりつけられたかのようにリフトされ、そのまま運ばれていく。おそらく彼らも何らかの理由で処刑されたのだろう。
二幕冒頭はロベピの見せ場で、ロベピに鼓舞された民衆たちが舞台後方へと勢いよくはけていくのだが、最後にロベピただ1人が観客の方を振り返り、手をあげるシーンもよかった。観客である我々にも革命に参加するよう促しているようでもあるし、某学習漫画の「わたしの後ろには何人がついてきているんだろう」という哀愁を感じさせるようにも見える。
そこからロベピの出番はないが、カテコ(と呼ぶのか?)でもう一度現れる。一度めのカテコではギロチンを背景にサンソンを頂点に民衆が三角形に並んでいるのだが(拙い語彙力ですみません)、2度目のカテコではそのサンソンのさらに上に熊川ロベピがいる。
勢いで書き連ねているので何だかまとまりのない話になってしまったが、こんな感じだろうか。あとはサンソンの存在感が大きく、衣装もかっこよかった。
K-BALLETのパリの炎、本当に良かった。配信もあるそうなのでぜひ1人でも多くの方に見てほしいが、この革命の熱狂はやはり生の舞台を見てこそだろう。昨今はAIの台頭が著しいが、生身の人間の身体というものの重要性を感じられる。だからこそ革命も、政治的に無力化させるだけではなく、その人間の身体もろとも抹消する=処刑することになったのだろう。バレエだからこそこれだけのエネルギーを表現できたのかもしれない。改めて、とても良い舞台だった。もし読んでくれた方がいたら、拙い文章に付き合っていただきありがとうございました。

