小林康夫、大澤真幸による『「知の技法」入門』を読みました。これからブログを運営していくにあたって勉強になった点があったのでまとめます。
「知の技法」とは
『知の技法』は、小林康夫、船曳建夫の編集により1994年に東京大学出版会から出版された書籍。東京大学教養学部で1993年度より設けられた文系1年生の必修科目「基礎演習」のテキスト。続いて1995年に『知の論理』、1996年に『知のモラル』が東京大学出版会から出版された。『知の技法』『知のモラル』『知の論理』は「知の三部作」と呼ばれる。1998年には『新・知の技法』も刊行。
小林 康夫(1950-):東京大学名誉教授。専門は現代哲学、表象文化論。
船曳建夫(1948-):東京大学名誉教授。専門は文化人類学。
『「知の技法」入門』とは
2014年に河出書房新社より刊行された書籍。小林康夫と大澤真幸という二人の日本を代表する学者による対談集。実存主義から構造主義、ポスト構造主義にいたる哲学史の流れや、自然科学と人文科学がどう接続するか、といった学術的な内容を噛み砕いて教えてくれる。また、二人のおすすめの人文書紹介や、読書の方法なども記されており、哲学に詳しくないひとでも読める一冊。とにかくハイデガーの『存在と時間』がすごいということがわかった。何度も挫折しているのでもう一度チャレンジしたい。
それから『銃・病原菌・鉄』も読みたいと思った。
勉強になった点
本書は読書に関する本なのですが、ブロガーとしても役立つと思った点があったので少々我田引水的に印象に残った箇所を紹介します。
文章を書くということ
・情報は「重さをもたない言葉」(小林p.9)。本は考えるために読む、というか本を読むと「考えるに値すること」が世の中にあるということを知れる(大澤p.11)。
つまり、書物というのは、わかるとわからないの二部法ではないようにできていて、「わからないのにある意味でわかる」というところがあったりして、わかることとわからないこととが、互いに排他的になっておらず、時にセットになって感じてくる。……(中略)……本は、情報ではなく、何か一つの世界を示しているんでしょうね。
大澤p.20
本ブログでも、役に立つ即効性のある情報だけでなく、長く読者の方の心に残るような記事を公開できるように気を引き締めて頑張りたいです。
また、大澤の以下の言葉が印象に残りました。
おそらく何かを伝えながら、何かを書きながら、本当は世界を伝えようとしているんだけど、世界そのものは直接言葉にならないんですよね。だから間接的、断片的な言い方の中から世界を示そうとするのだけれど、発せられたり、記されたりした言葉は、常に、伝えようとする世界とどこかズレがある。言ってしまった時には、違和感を感じるようなことでなければ書くにも値しない。
大澤p.23
「言ってしまった時には、違和感を感じるようなことでなければ書くにも値しない」、胸に刻みます。
本を読むということ
・人文書を読むことの意義:この世界に内在しつつ、世界に関わる=出来事に意味を与えること(大澤p.11-13)。
この事件[バスティーユ陥落]が、革命の始まりに見えるのは、僕らが、この事件を発端とするおよそ十年間の出来事の連なりを「フランス革命」として意味づけているからです。……(中略)……つまり、「フランス革命」というまとまりは、現在何者かとして、この世界に関わろうとしている主体にとってしか、存在しないはずです。要するに、世界に内在しつつ、世界に関わろうとしている者にとってのみ、フランス革命は存在する。
大澤pp.12-13
まさに人文学の意義と歓びが端的にまとめられている!「世界に内在しつつ、世界に関わろうとしている者にとってのみ、フランス革命は存在する」という言葉がかっこよすぎる。こういう、鍛え抜かれた抽象的な言葉によってしか得られない養分というものがある……。
私もこれから色々と歴史について綴っていきたいと考えていますが、先人たちの知の蓄積に基づきながら、新たな意味を創出できるように頑張りたいです。言うは易く行うは難しですが。
また、小林の以下の言葉ががつんと胸に響きました。
一人の人間が生きている時、ただ世界があってその中に人間がいるわけではない。一個一個の人間が孤独も悩みも全部含めて一つの世界をもっている。……(中略)……一人の人間がそのまま一個の世界として存在しているのだから、何か共通の尺度に自分を無理に当てはめる必要はない。しかもそれぞれの世界は閉じているわけじゃなくて、時代も空間も超えて相互にコミュニケーションが可能である。
小林p.14
「時代も空間も超えて相互にコミュニケーションが可能」!
私はロベスピエールをはじめとして、さまざまな歴史上の人物に想いを馳せながら生きているのですが、彼らとコミュニケーションをとっているような錯覚に陥ることがあるんですよね。実際には一方通行なわけですが、彼らがいることでどれだけ救われてきたか……!
宝塚批評に役立ちそう?
・一人の作家の著作を全て読んでみるという経験が必要。「一人の人間がどれくらいのことができるか、その孤独の恐ろしさ」(小林p.24)を知ることができる。
これは宝塚にもいえるかもしれないですね。一人の演出家、ジェンヌさんの作品を全部見てみる。本当は毎日毎公演見たいわけですけどさすがにそれはできない……。
・悪口をいうためだけのレビューや書評はやめよう(大澤p.27)。
理由は二つあって、まず第一に、単純に時間のムダです。つまらないと思ったら、ただほうっておけばよいのです。わざわざ「つまらない」ということを言ってまわったり、書いたりする必要はない。第二に、こっちのほうが大事ですが、わざわざ悪口を言うだけのために文章を書く時の自分の心情を反省してみればよい。その時の気持ちというのは、知ることの歓びとか、やむにやまれぬ思考へと人を誘う切実さとか、問い進めていく時のわくわくするおもしろさとか、そういうものとは、およそ無縁な、暗いルサンチマンでしょう。そういう心情というのは、思考の歓びの敵ですね。そういうルサンチマンばかり感じていると、だんだんと、読書することの本来の歓びとか、新鮮な驚きとか、そういうものを感じなくなってしまうのですよ。
大澤p.28
大澤は、つまらないと感じた著作のレビューを書くよりも、おもしろいと思った本の何が面白のかを伝える書評を書いた方が良いと主張します。その方が考えを深化させることができるそうです(大澤p.27)。
これは私も意識していることで、好きな作品のどこが面白いと思ったのか、どこに魅力を感じたのか、ということをできるだけ時間をかけて言語化するようにしています。どこが好きなのか?を突き詰めて考えていくことで、自分が人生でひっかかっていることに気づくこともできるような気がします。
・まずはその分野に関する本を100冊読む。100冊読んで、やっと世界が見えてくる。
まず数ということについてですが、どんなことでもある程度習熟し、ある程度のレベルに達するには、どうしても「桁」をこなさなくてはならないというのが僕の考えです。つまり(時間を含んだ)世界は指数関数的にできているということです。純粋に空間的な発想は「距離」ですよね。だから、1、2、3、……153、154、……というように、一律で数が増える。ところが、実践的な時間を組み込んだ世界というのは、細胞が増殖するような場面を考えてくれればいいんですが、世界は指数関数的に出現する。つまり、世界は爆発的なんです。
小林p.58
うーん、私は宝塚作品を100本見たことがあるだろうか……?さすがにショーも含めれば100本は見たことがあるような気もするけど、今度数えてみようと思いました。
宝塚の公式ホームページに掲載されている、2022年公演作品を数えると(ショーもいれて)35本。ということは毎作品見ていれば3年で100本は超えるという計算になります。
というか改めて思いましたが、一年で35本って凄まじいですね。宝塚関係者の努力に頭が下がるばかりです。
その他
・大澤が「哲学的な用語を自分の言葉に置き換えてみるのが大事」と言っている一方で、小林は「わからないまま置いておいた方が良い」(pp.94-101)と意見が食い違っていたところが面白かったです。「自分の文法が整っていないのに、人が使っている道具を自分が使おうなどと思うな」(小林p.97)という小林の言葉が印象に残りました。
・読書はダンスだ!
本を読むというのは、既にある知識情報を頭の中に入れるということでは全然なくて、自分が何らかの仕方でプレイして、行為して、アクトしていることなんだ。そのことの自覚があるかないかで行為の質が変わってくる。行為するなら、それは楽しい行為であったほうがいい。行為の究極はダンスですよね。ダンスというのは目的のない行為であり喜びのためだけの行為だから……「知」という行為もどこかでダンスみたいなことに繋がっていく。知は踊るんだと思いますね。
小林p.218
この記述を見た瞬間、私の頭の中でトート閣下が踊り出した……。阿呆みたいな感想ですみません。
おわりに
以上、『「知の技法」入門』でブロガーとして役立ちそうな点だけをまとめてみました。本書の記述を胸に、これからも一つ一つ丁寧に記事を執筆していきたいなと思いを新たにしました。思想史についての記述も大変興味深かったので、ぜひ読んでみてくださいね〜!
参考文献
小林康夫, 大澤真幸. (2014) 『「知の技法」入門』(東京:河出書房新社).
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