小説『蒼穹の昴』初見感想

読書する若い女性宝塚作品考察

今回は、浅田次郎の『蒼穹の昴』の初見感想をお送りします。2022年、雪組によって上演され、当初はその上演のクオリティの高さが話題を集めていた本作でしたが、とんでもないことになってしまいましたね。何も知らずに原作小説を読んでいた頃が懐かしい。そのとき書きためていた簡単な感想を公開したいと思います。

エンタメとしての完成度の高さ

うーん、うまい……と思いながら読みました。浅田次郎(恐れ多くも呼び捨て)に脱帽。まず、エンタメとして面白い。昴=人生の成功を目指すというテーマがありつつ、隠された秘宝を探す、という物語にもなっている。しかも呪いの伝説まで……。ここに何百年単位の歴史(しかも史実と創作を巧妙に織り交ぜ!)や人間の物語が絡んできていて、実際には春児の人生という限られた年月を描いているにもかかわらず、作品に厚みが出ている。しかも終盤には少年時代の毛沢東まで出てきて、作品を現実世界とつなげているところが面白いです。中国の歴史が一気に身近なものになりますよね。

植民地化において宣教師の果たした役割については学術的な議論の豊富な蓄積があるかと思うのですが、そうした問題について触れられていたのも嬉しかったです。登場人物たちがフランス革命を引き合いに出すことも多く、フランス革命がその後の世界史に与えたインパクトはどのようなものだったのか気になりました。

そして、人物造形も面白い。春児(李春雲)は、「自分が貧乏だから周りの人間はこのように振る舞うのだ」(ネタバレを回避するため抽象的な言い方になってしまった)と思い込んでいる節がある。だからこそすれ違いが生まれたり、反対に、だからこそ思ってもみなかった道を歩むことにもなります。予言といい呪いといい、あらかじめ示された物語をどう受け止めるのかによって、未来は変わるかもしれない……ということがこの作品の一つのテーマでもあるのかなと思いました。

歴史小説としての面白さ

正直にいうと、個人的には、架空の人物を主役にした歴史ものよりは、史実の人物を描いた作品の方が面白いという思い込みがありました。「事実は小説より奇なり」という言葉もありますし。ものすごい出来事をなしとげているから歴史に残っているわけで、そうそう普通の人物が彼らの面白さを超える人生を送るなんてできない(創作の人物で面白いのはオスカルやジャン・バルジャンくらいか)……という先入観があったのですが、今回完全に覆されました。春児も史了(梁文秀)も、実際に存在した他の登場人物に比肩する、あるいはそれを超える密度の人生を送ってます。

また、西太后の解釈も興味深いです。歴史上悪人と言われていたひとだけど、実際はなぜそのような振る舞いをするに至ったのか……そのような想像力を働かせる余地があるのが歴史小説の面白いところ。「その発想はなかった!!」と何度も心の中で叫びながら読み進めていきました。

春児のサクセス(?)ストーリーであると同時に(京劇の練習シーンとかスポ根漫画かと思いました)、列強諸国からの脅威にどのように立ち向かうか、という19世紀東洋に固有の政治問題をテーマにしたものでもあり、そもそも政治とは、国を統治するとは、といった普遍的なテーマも折り込まれていて、一粒で二度美味しいどころか、三度、四度、いやそれ以上、おいしい作品でした。

おわりに

私は個人的に日本の近現代史に興味があり、近隣国の歴史も勉強しなければ……と思っていたのですが、歴史書を読むだけではなかなか取っ付きづらく、中国史の勉強をサボっていました。しかし今回この作品を読んで、ぐっと中国が身近になったとともに、中国の近現代史もめちゃくちゃ面白いじゃん!!となったので、今後は中国の歴史についてもたくさん勉強していきたいと思います。

というか政治(革命か?)を扱った作品って本当に面白いですね。ここからはオタクの妄想ですが、タカラヅカ・政治改革委員会と称してマクシムと文秀、ルドルフあたりで座談会開いてほしいです。笑 ついでにストルーエンセ先生にもご登場いただいて、旧体制を変えるための自分の経験談とか学んだこととかを語りあってほしい。楠木一家も呼ぶか……? 隣の部屋では土方歳三とかに待機していてほしい。笑

このブログでは主に『ひかりふる路』周りのフランス史と『はいからさんが通る』あたりの日本史を紹介していこうと思っていたのですが、今後は中国の近現代史についても書くかも。『蒼穹の昴』、なかなか一度で全てを理解することは難しい、広がりのある作品だったので、ぼちぼち気になった史実を調べながらもう一度熟読してみたいと思います。

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